安さの秘密

安さの秘密

今から7、8年前のこと。
当時一人暮らしだった私は、引っ越し代をなるべく安く済ませようと、DMチラシでよく見かけていた、ある業者に頼むことにした。

そこはどちらかというと引っ越しというより、普通の配送をメインで行っている会社だったが、他の大手引っ越し業者と比べると破格な値段だったため、見積もり額を聞いて「ラッキー!」とさえ思っていた。
そして引っ越し当日。私は業者が来るのを待っていた。
玄関のチャイムが鳴り、ドアを開けると、作業着姿の小柄な男性が一人だけ立っていた。
「どうもお待たせしました、本日はよろしくお願いします」
どことなくぎこちない感じで、男性は言った。
「は、はい、よろしくお願いします・・・」
(え?作業員てまさか一人だけ?・・・しかもどう見ても新人のアルバイト君ぽい・・・)
学生のような幼い感じで、しかもひょろっとしている。
大丈夫かな・・・と少し不安に思っていると、彼から思わぬ言葉が出た。
「今日は作業員が一人ですので、○○様(私の名)にもお荷物運びを手伝ってもらいますがよろしいでしょうか?」
えっえええええ~?!
「もちろん、冷蔵庫や洗濯機など重い荷物だけで結構です」
ここで断るわけにもいかず、
「ハイ、ワカリマシタ・・・」
と頷いた。
私の部屋は建物の3階で、エレベーターはない。
大きな荷物は必然的に2人で運ぶしかない。

「1、2の3で持ち上げますよ、せーのっ、1、2、3!」
冷蔵庫、思った以上に重かった。
手がプルプル震えてる。え?これホントに1階まで運ぶの?
腕痙攣して痛いんですけど。
なんで20代のか弱い?女子がこんなガチンコなことやってんの?ああ安さの理由ってこういうことだったのね・・・

冷蔵庫、洗濯機、タンスと重いものはすべて手伝った。
男性の方も気を遣って「大丈夫ですか?」「あ、そこは僕がやりますよ」とか言ってくれたけど、さすがに疲れた。
向こうもきっと、対して力にもならない女性がヘルプマンじゃ大変だったと思う。

作業は1時間半ほどで無事に終了した。
その日はたまたまバレンタインデーだったので、私は自分用にと買っておいたチョコを、帰り際に彼に手渡した。
男性は恐縮しきりで「ホントにいいんですか、すいません」とペコペコしながらも、爽やかな笑顔を残して去っていった。

いい人そうだったなぁ・・・
でも今度引っ越しするときは、大手の業者に頼もう・・・
私は心にそう誓った。

単身パックが一番安いわけではない